陣痛

ある11月の日曜の朝、腰のジンジンとする痛みで目が覚めた。
妊娠も後期になってから腰と右足の付け根の痛みをよく感じるようになったが、今回はそんな生易しい痛みではなかった。立とうと思っても痛くて立てない。足が動かない。ベッドにゴロゴロ横たわり、
「痛いよ〜 痛いよ〜」
と、彼に訴える。
彼は腰をさすりながら、慌てて子どもの居る友達の家に電話をかけた。
「こんな様子なんだけど、これは陣痛?病院には行ったほうがいいのかな?」
病院で言われていた、「3〜5分おきに、6〜120秒間の痛みが続く」Contraction (陣痛)とは、違うと私は直感的に感じていた。

なぜならお腹の痛みではなかったし、ただ腰がもうズーッと休みなく痛いのだ。ナースでもある友達は、熱いシャワーを浴びると痛みが落ち着くよ、ということだったので、彼に引きずられながらバスルームへと行く。
本当に熱いシャワーを腰に当てると、みるみるうちに痛みが揺るいでいった。もうずっとこのままシャワーを浴びていたい気分だった。15分後、シャワーから出ると痛みは治まっているかのように思えた。

「どうする?取り合えず、病院行く?」彼はそわそわする。
もういつ産まれても良い頃だった。いつ、どんなときに病院へ行ってもいいように、病院用のバッグも用意してあった。だが、まだ予定日まで4日。皆から初出産は予定日より遅れがち、と言われていたので私は、あと3−4日は生まれないだろう、と感じていた。
とりあえず、今回のは本陣痛ではないだろうと思いつつも、安全をみてTriage(*1) へと行く事にした。

Triageでは、陣痛の頻度をデータチェックしながら、私のドクターに連絡をする。しかし、30分様子を見たところで、まだ1cmしか開いてないし、今回のは本陣痛ではないので家で様子を見るように、と言われ家に帰ることになった。

なんとなくがっかりしながらも、「まあやっぱりな。。そんなことは分かっていたさ。。。」などと思い、その後、また普通に過ごした。このとき まさかこれが前陣痛だとは予想もしないで。

そしてその2日後の朝方。

また腰が痛かった。時計を見ると朝の4時である。彼は隣でスヤスヤ眠っている。
ああ、痛い。。。私は腰をドンドンとこぶしで叩きながら、また寝ようとしたのだが、痛みは治まらない。
そして痛みはだんだん強くなっていき、3分ごとに60秒間の痛みがあった。
お腹の中では、赤ちゃんがゴロゴロ動いているのが分かる。お腹は痛みがないようだった。

これは陣痛・・?? またただの腰の痛み・・??

5時になり、隣でウ〜ン ウ〜ンと唸っている私に気付く彼。「どうしたの?痛いの?」と聞く。
「と、時計を見て!痛みを数えて!!」私が叫ぶ。
痛みは90秒続いているようだった。そして、波があり、3−5分くらい痛みが治まるときには、彼に「もしかしたら陣痛かもしれない。腰がめちゃくちゃ痛いよ。」と話すことができるのだが、痛みが始まると ウオ〜 ウオ〜!!!とお腹を丸めて転がることしか出来ない。

その痛みの様子に彼は、「病院だ!病院へ行こう!」と慌てて服に着替える。
私もなんとか服に着替えて車へと担ぎこまれる。このとき5時半。もう痛みは全開、唸る事しか出来なかった。

6時に病院へ着き、いつものようにTriageへ。前回よりも半端な痛みじゃない。
慌ててナースがチェックする。そしてWater break (破水)がなかったか、と聞く。
私は痛みを我慢しながら「破水はなかったようだけれど、トイレにはちょくちょく行ってチョロチョロと出ていたが」と答えると、どうやらそれが破水だったと知らされる。
友達の経験や育児雑誌などを読むと破水とは、水がドバー!!っと出るような事だと思っていたから、おしっこがチョロチョロ出るような感覚が破水だとは分からなかった。「破水が起きたら病院へ」と言われていたので、今回はTriageへ来て正解だったのだ。

「もう4cmも開いてるわ!今日 赤ちゃん生まれるわね。」と言われる。私は、いよいよ本当に赤ちゃんに会えるのだ、思うとなぜか涙が出てきてしまった。
ずっと10ヶ月待っていた事が、ホントに起こる。それは、なんとなく私にとって 不思議とまだ信じられないような感覚だった。

生まれると聞いて、彼の目は輝いてた。「えっ!?今日ですか?何時頃ですか?」ナースに質問しまくる。とりあえず、今のうちに車を駐車場へ入れてバッグを持ってきたほうがいい、家族に電話するなら今のうちよ、とナースに言われ「すぐ戻ってくるからね。」と言って彼は車へと急いだ。

「だけど、これからまだまだ時間がかかるわね。あまり呼吸を荒らさないで、そんな荒れては赤ちゃんが危険よ。」とナースが私を落ち着かせる。自分的には、呼吸をいっぱい吸ってるつもりなのだが、この痛い感覚でどうやって落ち着かせるのか。一体、この痛みにどれくらいたえなくてはいけないのだろう?赤ちゃんが生まれるのはいつなんだろう?今日の午後?それとも夜・・?

相変わらず、腰が壊されるような痛みに耐えられず、アア−!オー!!ヘルプ!!Please help!と叫びながらナースと夫と共にDelivery Room (分娩室)へと車椅子で移動するのであった。  


(*1)Triage ・・・トリア-ジ。ドクターに診てもらう前に、ナースがここで診てドクターへ連絡、ドクターが診る必要があるか判断を促してもらう所。アメリカではドクターは忙しいので、こうして専門的なことが出来るナースが、その手前で治療・ケアをする事が出来る。