キンダーを遅らせるという事
4歳のエマは、クラスの学級委員長的存在だ。聡明で活発、いつもはきはき、ニコニコしていてクラスで問題を起こしたことがない。かといって、大人びているというわけでもなく、子供らしくハグしたり甘えたりの態度もみせる。
そんなエマは教師にとっても 保育しやすい子供であり、(家では また違うのだろうけど)こんな子供が自分の子供だったら。。と思うような児童であった。
クラスの子供たちがどんどん5歳になっていく その年の春、父兄たちも秋から始まるキンダーのレジストレーション(*1)が始まり、どこのキンダーへ行くか、私立か公立か、キンダーを遅らせるかどうか といった話題で持ちきりになってくる。
園では希望者を対象にした 「キンダーへの準備」についてのワークショップ(*2)が行われたり、クラスでも保護者面談を行っていく。
キンダーを遅らせるかどうか、というのは 主に誕生日が遅い児童、発達・成長がゆっくりな児童をもつ父兄を対象に話題になる話であって、遅生まれの子をもつ母親は、私達教師に「先生、うちの子どうでしょうか?遅らせるべきでしょうか?」と意見を聞かれることがよくある。
大勢の子供たちをみていくと、「この子なら おそらくキンダーでも大丈夫だろう」「この子は1年待ったほうが、キンダーで余裕持てるんじゃないかな?」と 分かることが多い。
その意見を参考にしながら 最終決定は両親が決めていく。
エマに関して言えば、問題なしの太鼓判だった。クラスの中でも上のほうだし、むしろもう1年プレスクールでは 退屈するんじゃないか、とも思っていた。
エマは9月後半生まれだった。
来年度のクラス調整をする段階で、エマの母親はエマをキンダーへ1年遅らせて行かせることにした、と言いに来たので 正直 驚いてしまった。
エマの親友の10月後半生まれのアビーは 来年キンダーへ行くというのに。
エマの母親は 私にこう言った。「小児科や小学校の先生など 色んな方に色んな意見を伺ったんです。今のキンダーは私の時代とは違うし、かなり進んでいる。色々考えて、エマを遅らせて、クラスのトップにしたほうが エマには良いだろうと決めたんです。それに、どうせ18になったら巣立ってしまうのだから、もう1年長く居たいしね。」
そのときの、私にはあのエマだったら 遅らせなくても良いのに。。。と思っていたが、3歳の娘をみながら、「遅らせる」ということに対して 少し考えも変わってきた。
「キンダーを遅らせる」ということに抵抗のある親は、アメリカ人の中にも少なくない。在米日本人になると 余計「遅らせる=成長が遅い」のような感覚をもち、「わが子を遅らせてはならぬ。早く早く学校へ行けるようにせねば。」と思う人もかなりいる。日本では 選べないことだから、行ける年齢であるのなら その年に行かせるべき、と思うのだろう。私もそんな気持ちが少しあった。早くいけるほうが(体裁が)良いと。
しかし、年々 キンダー、小学校1年の内容が進む中、遅生まれの子供は 自分のペースで普通に成長してるだけじゃ間に合わず、1月生まれの子供と同じことをその年にできるようにならないといけないことを学校は要求している。つまり、遅生まれの子は ちょっと発達・成長が進んでいないと、いけないのである。
これは 子供にとって負担ではないだろうか・・・?
べべも11月後半生まれ。つまり クラスでは一番年下になる。ティーンだとさほど 差のないこの11ヶ月が、3、4歳では大きな差が明らかである。
クラスの中でも、幼い感じだし、友達とネゴシエートする能力に欠ける。大文字・小文字・数字は読めるようになったし、書くほうも少しずつ語数が増えてきたのだが、教師経験から言って キンダーに必要なのは 語学力などより むしろ社会能力だと痛感する。
この子には まだそれが十分ではない。
来年は4歳クラスへと進級し、その後は同級生はキンダーへ進むが、私は この子を1年遅らせようと考えている。先生も「まだ あと1年あるし、様子をみて」と言ってくださっているのだが、べべは11月うまれなりの成長をしているのに、キンダーへいくとなると1月生まれレベルを要求されるのだ。勿論、来年の成長ぶりをみてから決めなければいけないが、べべにとって それは負担じゃないかなあと感じるのだ。
べべの同級生の父兄には3人の小学校の先生がいるので、「キンダーへ行くかどうか」について、そのうちの1人の先生とも話してみた。
学校で教えるカリキュラムは先生や学校が決めるものではなく、市からいわれたものなので、この昨今の進み具合は 先生にとっても負担が大きいという。
ましてやそれを小さな子供たちが覚えていかなければいけない。それはとても大変だと言った。(このキンダーでは 大文字・小文字は勿論、筆記体まで読めなければならず、算数に関して言えば Xフィート=Oインチなどという計算もやっていて 私もびっくりしてしまった!日本だったらこれは小学校レベルではないのだろうか??)
小学2年生から統一試験が始まるので、留年はそこから始まるのだが、9月以降生まれの子供たちの多くは、キンダーを遅らせる傾向があるという。 「11月だったら遅らせたほうが、べべちゃんにとって絶対良いわよ。」と教えてくれた。
幸い、ここの学区には遅生まれの子を対象にしたプログラムがあり、4歳クラス
終了後、そのプログラムにて 「4歳クラス以上 キンダー以下」の内容をゆっくり1年かけて教わるらしい。クラスは毎日キンダーと同じ時間だけある。そして、その後児童はキンダーへ進むという。知らなかった私は それはなんていいプログラムだろう!と思った。同じ誕生月あたりの子供たちとゆっくり 学んでいけるのだ。SDでもディストリクトによりないところもあるらしい。
遅らせる、ということはなにも悪いことでも 頭の悪いことでも なんでもない。その子 その子の成長にあわせていけばいいだけで、何も 背伸びすることはないのだ。
べべの成長もきっとあっという間だろう。もう1年一緒にいることがのびる、そう思うと ちょっぴり 嬉しくもある。
*予定しているキンダーやディストリクトの小学校のサイトに、キンダーでやるべき内容が細かく書かれているので、そちらをみてみるとよく分かります。学校のレベルなどにもより違いがあります。
子供たちの名前は仮名です。
(*1)レジストレーション・・・registration/ 申請すること
(*2)ワークショップ・・・workshop/ 勉強会
(*3)誕生日が遅い・・・アメリカでは8〜9月から学校が始まるので、12月2日で区切る場合、9月から12月1日生まれの子供は遅生まれとなる。州や学校によって違いあり。
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